Solstice PPP 3.0.1 管理者ガイド

Solstice PPP 上での IP アプリケーションの実行

Solstice PPP をホストマシン上に構成し起動すると、標準 IP パケットがカプセル化されてシリアルポイントツーポイントリンク上に配信されます。このプロセスは、図 1-1 の 3 つのフェーズによって行われます。

  1. 2 つのエンドポイント間に物理接続が確立されます。

  2. 物理接続上に PPP リンクが確立されます。

  3. PPP リンク上に IP が確立されます。

図 1-1 PPP リンクにおける IP の確立

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物理接続の確立

全二重ビットシリアル接続を通して、データを送信することができます。EIA-232-E (旧 RS-232-C)、EIA-422、EIA-423、EIA-530、CCITT V.24 と V.35 などの一般的なシリアル通信プロトコルは、すべてサポートされています。Solstice PPP の物理接続は、同期接続と非同期接続のどちらでもかまいません。

同期接続

同期接続では、独立したクロック信号によってデータ伝送の同期をとります。2 つのエンドポイント間の常時接続を確立する同期接続には、通常、専用回線が使用されます。

同期接続では送信したデータ量とは関係なく、リースの期間に対してユーザーは料金を支払います。したがって、同期接続は連続的なデータトラフィックに最も適しており、通常は、図 1-2 のような LAN 同士の相互接続や大量送信に利用されます。

図 1-2 LAN 間の同期接続

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同期接続は、ホストマシンにインストールされている同期シリアルインタフェースを通して確立されます。同期接続は Solstice PPP の起動時に確立するので、独立した接続フェーズなしで同期接続上に PPP リンクが確立されます。

非同期接続

非同期接続では、データに含まれる情報 (ソフトウェアフロー制御) またはシリアルインタフェースが生成するハンドシェーク信号 (ハードウェアフロー制御) を使用してデータ伝送を制御します。2 つのエンドポイントを一時的に接続する非同期接続は、通常、私設電話網や公衆電話網を通して、またはヌルモデムリンクを通して確立されます。

接続料金は呼に要した時間とエンドポイント間の距離に基づいています。したがって、非同期接続は一時的なネットワークトラフィックに最も適しており、通常は図 1-3 のような移動通信、テレワーキング、一時的なアクセスに利用されます。

図 1-3 クライアントとサーバー間の非同期接続

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非同期接続は、ホストマシンにインストールされている非同期シリアルインタフェースによって確立されます。また、ホストマシンとアナログ電話網のインタフェースとなるモデムによっても確立されます。各エンドポイントにあるモデム同士が接続フェーズ時に通信すると、呼が設定されます。

モデムの構成については、モデムデータベースファイル /etc/opt/SUNWconn/ppp/modems を参照してください。

標準の Hayes AT コマンドをサポートするモデムは、モデムデータベースファイルに構成情報を追加することができます。モデムを構成するためのコマンドの詳細については、モデムのマニュアルを参照してください。

物理接続上における PPP の確立

物理接続が確立すると、各エンドポイントによってネゴシエーションが行われ、PPP 層の共通構成が定義されます。同期接続の場合は、マシン上で Solstice PPP を起動するたびに PPP 層が確立されます。非同期接続の場合は、リモートホストに発信するたびに PPP 層が確立されます。

各エンドポイントは、希望する構成とサポートするプロトコルオプションに関する情報が入ったリンク制御プロトコル (LCP) フレームを、PPP ネゴシエーションフェーズ中に交換します。ネゴシエーションの対象となるパラメータには、低速接続で高性能を得るための圧縮アルゴリズムが使用されたり、非承認アクセスから保護するための認証プロトコルが使用されます。ネゴシエーションを収束することが目的ですが、両端で共通構成の一致に失敗した場合は、リンクは自動的に切断されます。

PPP 上における IP の確立

PPP リンクが確立すると、各エンドポイントはネゴシエーションを行なって IP 層の共通構成を定義します。各エンドポイントは、希望する構成を含むネットワーク制御プロトコル (NCP) フレームを、IP ネゴシエーションフェーズで交換します。ネゴシエーションの対象となるパラメータとして、IP アドレスを含めることができます。これが、IP アドレス動的割り当ての基盤となります。

同期/非同期 PPP リンクを通して IP データグラムの送信経路には、Solstice PPP と Solaris オペレーティングシステムの IP 層の境界となる論理的 IP インタフェースを定義する必要があります。論理的 IP インタフェースは、ネゴシエーションを行なった構成情報に基づいて初期化されます。

Solstice PPP は、以下の 2 種類の IP インタフェースをサポートします。

ポイントツーポイント IP インタフェース (ipdptpn)

Solstice PPP のポイントツーポイント IP インタフェースは、 /dev/ipdptp です。このインタフェースは、図 1-4 で示すような 2 つのホスト間だけを、直接 IP に接続します。

図 1-4 IP ポイントツーポイント構成

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ポイントツーポイント IP インタフェースを定義するには、1 つの発信元アドレス (アタッチメントポイント) と一意の着信先アドレスを指定します。IP データグラムがポイントツーポイントインタフェースに到達した後の次のホップの宛先は、1 つだけです。したがって、1 つのホストの複数のポイントツーポイント接続に、1 つの発信元アドレスを使用することができます。複数のポイントツーポイント接続を利用すると、複数のリモートホストに同時に接続することができます。

IP ポイントツーポイント接続は、Solstice PPP による同期リンクと非同期リンクの両方によってサポートされています。

ポイントツーマルチポイント IP インタフェース (ipdn)

Solstice PPP のポイントツーマルチポイント IP インタフェースは、/dev/ipd です。図 1-5 で示す 1 つのホストと他の複数のホスト間の IP 接続を 1 個のインタフェースによって作成します。ポイントツーマルチポイントインタフェースを使用することによって、サブネットワーク番号を持つ仮想サブネットワークが作成されます。

図 1-5 IP ポイントツーマルチポイント構成

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ポイントツーマルチポイントインタフェースを定義するには、発信元アドレスだけを指定します。IP データグラムが、ポイントツーマルチポイントインタフェースに到達した後の次のホップにおける宛先は、複数存在する場合があります。したがって、各ポイントツーマルチポイントインタフェースに、一意な発信元アドレスを設定する必要があります。

IP ポイントツーマルチポイント接続をサポートするのは、非同期 Solstice PPP リンクだけです。

同期 PPP リンクにおける負荷分散

負荷分散機能は、標準実装 PPP における Sun 独特の拡張機能です。1 つの IP インタフェースからのネットワークトラフィックを図 1-6 で示す複数の同期リンク間で均等に分散して、帯域幅を増やすことを可能にします。

図 1-6 同期リンクにおける負荷分散

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注 -

高性能を確保するには、負荷分散に使用するすべての同期デバイスの回線速度が等しい必要があります。負荷分散機能を利用するには、リンクの両端に Solstice PPP が実装されている必要があります。


Solstice PPP による負荷分散の例については、「同期リンクにおける負荷分散」を参照してください。

IP アドレスの動的割り当て

Solstice PPP には、非同期 PPP リンクにおいて IP アドレスを動的に割り当てる機能があります。PPP リンクが確立すると、クライアントはこのメカニズムを利用して IP アドレスをサーバーから取り出します。

クライアント側で、IP アドレスの動的割り当て機能を有効にします。サーバーとの PPP リンクを開始する場合は、クライアントが IP アドレスを要求します。この要求に対し、クライアントのローカルインタフェースに割り当てられている IP アドレスとサーバー自身の IP アドレスをサーバーが返します。クライアントはこれらのアドレスを使用して、PPP リンクのポイントツーポイント IP 接続を確立します。

サーバー上で IP アドレスの動的割り当てをサポートするには、ポイントツーポイント IP インタフェースプールを定義する必要があります。クライアントが IP アドレスを要求すると、サーバーはこのプールからインタフェースを取り出して割り当てます。PPP リンクが終了すると、インタフェースはプールに戻されます。

プールに存在する IP インタフェースの数は、サーバーに接続するモデムの数と等しい必要があります。サーバーがサポートするクライアントの数ははるかに多いので、接続に利用できるモデムがあるかぎり、要求に応じて IP アドレスが割り当てられます。

IP アドレスの動的割り当て機能を使用できるようにサーバーとクライアントを設定する方法については、第 4 章「構成ファイルの編集」を参照してください。

静的 IP インタフェースと動的 IP インタフェース

ポイントツーポイント IP インタフェースには、静的 IP インタフェースと動的 IP インタフェースの 2 種類があります。

動的な IP インタフェースを使用した IP アドレスの動的割り当てを使用するインターネットサーバー構成の詳細な例については、「汎用インターネットサーバー構成」を参照してください。